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概要

仕訳という表現方法を会計分野から借りて、負の数を数学的にきちんと定義してみる。
それをする世のためになる理由は特にないですが、同値関係、well-definedなどの社会人的に知っておいて損はなさそうな概念を書けるので良いんじゃないかと思って書く。

注意

  • ここでは0は自然数とする流儀とします。自然数を仕訳の空間に埋め込むとき楽だからです
  • 自然数の直積を割るだけなので難しい話でも目新しい話でもないです。
  • 仕訳という言葉を使いますが勘定科目は登場しません。仕訳という表現はあくまで借り物です。

仕訳

次のような表を仕訳と呼びます

借方 貸方
123 45

借方・貸方にはそれぞれ0,1,2,3,…の0以上の数が一つ入ります。負の数は入りません。これから負の数を作るので負の数は使えません。

仕訳の足し算

二つの仕訳を考えます。

借方 貸方
a b
借方 貸方
c d

この二つの仕訳の「足し算した仕訳」を次のように決めます。

借方 貸方
a+c b+d

足し算した仕訳は次のようにも書くとします。その時々で「使いやすい」ものを選びます。

借方 貸方
a b
c d

自然数と仕訳

aを自然数(0,1,2,3…のいずれかのこと)とします。
「自然数aに対する仕訳」を次のように決めます。

借方 貸方
a 0

この仕訳を、entry(a)を書くことにします。

注意

この定義のために、自然数に0を含む流儀を採用しました。

entryは和を保つ。

今、2種類の足し算があります

  • 自然数の足し算
  • 仕訳の足し算

仕訳の足し算が自然数の足し算をより広げた計算システムであることを見るのが本節の目的です。

a, b をそれぞれ自然数とします。
これらに対応する仕訳entry(a)、entry(b)は定義より次のようになります

entry(a) =

借方 貸方
a 0

entry(b) =

借方 貸方
b 0

entry(a+b) と 「entry(a)とentry(b)の足し算仕訳」をそれぞれ計算します。

entry(a+b) =

借方 貸方
a+b 0

entry(a)とentry(b)の足し算 =

借方 貸方
a 0
b 0

仕訳の足し算の作り方からこの二つは一致しています。
後者の仕訳をentry(a) + entry(b) と書いてもよいでしょう。

改めて書くと、 entry(a + b) = entry(a) + entry(b) という公式が得られました。
この公式のことを「entryは和を保つ」と言います。

0 仕訳と等価

次のように借方と貸方が等しい仕訳を0仕訳と呼ぶことにします。

借方 貸方
z z

仕訳に対して、0仕訳を足したものは「等価である」ということにします。
名前から想像できるように、これが整数の0に相当する数になっていきます。

例えば、次の仕訳は

借方 貸方
a b
z z

借方 貸方
a b

と等価です。

定理

主張

任意の仕訳は次のどちらかの仕訳に等価:

借方 貸方
a 0
借方 貸方
0 b

証明

借方 貸方
a b

にを考えます。

  1. a > b
  2. a = b
  3. a < c
a > b のとき

この時、a = b + c となる自然数cが存在します。
この時次の仕訳を計算しましょう。

借方 貸方
c 0
b b

=

借方 貸方
c+b = a b

次の 0 仕訳により、元の仕訳が等価だとわかります。

借方 貸方
b b
a = bのとき

次の0 仕訳に等価です:

借方 貸方
0 0

もともと0 仕訳です。明らかです。

a < b のとき

a > b のときと同じように示されます。

以上、証明終わりです。

負の数

次の二つの仕訳の和を観察してみます。

借方 貸方
a 0
0 a

これは0 仕訳です。

一方、仕訳

借方 貸方
a 0

は自然数aに由来する仕訳entry(a)です。さて、仕訳

借方 貸方
0 a

を少し解釈してみましょう。これは「aを足すと0になる数」と考えることができます。
また、幸いこの仕訳は自然数に由来する仕訳ではないので、新しい数と考えることができます。

0 仕訳分の揺らぎ

次の仕訳はどのような、数と考えられるでしょうか

借方 貸方
200 100

これは次のように書けます。

借方 貸方
100 0
100 100

これはentry(100)と等価を意味します。一方、entry(100)は自然数100に由来しています。
今までの足し算の性質などから、最初の仕訳はentry(100)と同じと考えるべきでしょう。

純利と純損

「すべての仕訳を分類」したいと思います。なぜそうするか?物事を見たら類別したくなるからです。
さて、

借方 貸方
a 0

と等価な仕訳たち全てをひとまとめにしたものを「純益a」と呼びます。
「ひとまとめにしたもの」とは?と思いますが、イメージしやすくするなら仕訳を1枚の紙と、その仕訳の紙束と思えばいいでしょう。少し想像し辛い点は、紙が無限に多くあることです。

借方 貸方
0 a

と等価な仕訳たちをひとまとめにしたものを「純損a」と呼ぶことにします。二つの総称として純損益という言葉をこれから使います。
純利aも、純損aも「仕訳」ではありません。なぜかというとこれは仕訳の束だからです。
束と1枚の紙は違います。束ねた結果たまたま1枚しかなかったということはあり得るとしても。

注意

当初、ここで仕訳と言っているものは貸借対照表のイメージを持っておりましたが、
純という言葉を使いたくなり、純資本の対語でよいものが思い浮かばなかったため、純損益という言葉を選びました。

純損益の足し算

数は足し算がありました。
仕訳の足し算も作りました。
こんどは仕訳の束である純損益の足し算を作ります。

次の仕訳に対して、

借方 貸方
a b

この仕訳を含む純損益をpure(a,b)と書くことにします。どのような仕訳に対しても、それを含む純損益が存在することは先ほど示した定理から結論づけられます。
pure(a, b) + pure(c, d)はどう定めましょう。pure(a+c, b+d)と定めるのが自然に思えます。

pure(a+c, b+d)は次の仕訳を含む純損益です

借方 貸方
a+c b+d

一方これは仕訳の和と考えられるので、このような足し算が純損益の足し算とするのは自然なことのように思えます。

純損益の難しさは次の点です

pure(a, b) = pure(c, d)としましょう。

純損益は一緒ですが、考えられる仕訳は異なります。